フォーカス
コミュニティの核としての国際展──北川フラム氏インタビュー
暮沢剛巳
2009年01月15日号
──2009年は、4度目の越後妻有アートトリエンナーレが開催されますね。まずその開催概要を教えてください。
北川──7月26日~9月13日の50日間にわたって開催されます。計26カ国から約150組のアーティストが参加し、ほぼ妻有全域に作品を設置します。招待作家としてはマリーナ・アブラモヴィッチ、アントニ・ゴームリー、クロード・レベック、塩田千春など。公募参加のアーティストも審査が終了してほぼ全容が固まったところです。
──アーティストの選考基準は?
北川──越後妻有の地域性を理解し、地域のコミュニティに溶け込んで作品をつくってくれることが最優先。すべて私一人で選考しました。
──それにしても、前回で終了という噂も流れたくらいですから、資金繰りは厳しかったのではないですか?
北川──そりゃ厳しいですよ、新潟県からは一銭も出ていないですから。会場の十日町市と津南町では3年総額で1億円の予算を確保していますが、事業総額が約6億円かかるのでそれだけでは全然足りません。新作だけでなく、過去3回で設置された作品のメンテナンスもしないとなりませんし。結局ほかは、パスポートの売り上げその他の事業収入と企業などの協賛金や寄付に頼ることになります。
──そのあたりの金策は経験豊富そうですね(笑)。ところで今回の目玉は何になりますか?
北川──目玉というと語弊がありますが、廃校ですね。ご存知のように妻有は過疎が進行していて廃校が多いし、2004年の中越沖地震がそれをダメ押しした。廃校を利用したプロジェクトは前回もありましたが、作品を設置したり宿泊施設として利用したり、今回はそれをさらに大々的に展開します。廃屋を作品化する家プロジェクトも同様です。前回の作品もおおむね好評で、売れたものもあったのですよ。
──それはすごいですね。過去3回の実績を積んだことで、地元の人の反応もずいぶん変わってきたのでは?
北川──そうですね。地元の人の多くは高齢者で、彼らは現代アートなんてまったく見たこともなかった。そういう人を対象に、つくってつくったから見ろという態度で接してもダメで、作品一つとっても、それをコミュニケーションのなかに位置付けないといけない。そういう意味で言うと、ボランティア組織であるこへび隊の役割は重要です。またじつは、ほぼ同時期に新潟市でも水と土の芸術祭というアート・イベントが開かれる予定で、こちらはランド・アートを中心としたものですが、地理的にも近いし、相互にリンクを図っていきたいですね。
──一方、2010年は瀬戸内海を舞台とした瀬戸内国際芸術祭が開催予定で、こちらにもかかわられていますね。
北川──こちらはもともと福武總一郎さんの音頭とりでスタートした構想なんです。福武さんには前回の妻有のときにもご協力いただきましたが、その終了後まもなく彼の地元の瀬戸内海でも地域活性化のためのアート・イベントをやりたいので協力してもらえないかとの打診を受けた。大変なのはわかっていましたが、魅力を感じたのでお引き受けしました。
──山間部を会場とした越後妻有とはうってかわって、こちらは瀬戸内海の島々が舞台で、条件がまったく異なりますよね?
北川──ええ。だから越後妻有が「大地の芸術祭」なのに対して、こちらはサブタイトルで「海とアートをめぐる100日間の冒険」と謳っています。実施体制としては、中心であるプロデューサーはもちろん福武さんで、私はディレクターとしてコンセプト作りや作家選出のお手伝いをするかたちですね。直島の成功でしばしば忘れられがちですが、瀬戸内海の小島はどこも過疎が進行していて、子どもは高校を卒業する時に家族が島外に出てしまうし、また島と島を直接行き来する船も就航していないなど交通の便も悪い。そうした地域の問題にもスポットを当てて活性化のきっかけとしたいですね。
──参加作家はある程度決まっているのですか?
北川──会場となるのは瀬戸内海の7つの島(直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島)と高松市ですが、直島には安藤忠雄設計の新しい美術館に李禹煥の作品が設置される予定です。豊島では西沢立衛の美術館に内藤礼の作品が設置されるほか、青木野枝が新作を制作し、クリスチャン・ボルタンスキーがアーカイヴをつくります。犬島にはすでに柳幸典の作品がありますが、妹島和世と長谷川祐子が共同で家プロジェクトを展開します。大島ではハンセン氏病の元患者さんが作品づくりに関わります。いまのところ発表できる招待作家はそんなところで、あと大島、女木島、男木島には一般公募の作品が設置される予定です。作品の選出はこれからになりますが、もちろん地域の問題を重視して選ぶことになるでしょう。総計で80組くらいの規模になるでしょうか。まだ1回目も開催していない状態ですが、それ以降も5年に1度、可能であれば3年に1度のイベントとして定着させていきたいですね。
──ますます忙しくなりますね。体を壊しては元も子もありませんから、健康にはぜひ気をつけてください。ところで、近年は世界各地で多くの国際展が開かれているので、それに対応しているようにも見えます。それらの国際展などを見ていて、近年の美術はどのような方向性に向かっているように感じられますか?
北川──思うところは主に3つです。一番目が、美術が地域のコミュニティ作りの核となってきたこと、二番目が、ホワイトキューブから脱却しようとする動きが顕著になってきたこと、そして三番目に、美術というカテゴリーが多様化の一途を辿っているということです。そういう意味では、越後妻有をはじめとする私の携わっているプロジェクトは国際的に見てもけっして特異なものではなく、むしろ近年の美術の動向に即したものなんですよ。
2008年12月30日、アートフロントギャラリーにて